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鬼形部×弦一郎
合戦に行く前、武士たちは念者となっている男と契りを結ぶ。
相手の精気をもらい己を鼓舞させるのだ。
今宵は葦名弦一郎と鬼庭刑部雅孝が伽のまえに向かい合っていた。
お互い襦袢姿であった。
「して、何を贈ろうかの」
雅孝が問いかける。
伽の折に、念者の相手に自分の身に付けているものを託す。
これを生きて帰って持って来いという意味合いがある。
「もう贈るものがないな」
弦一郎は自分の手持ちを見て答える。
「はは…戦続きだったからの…」
雅孝は渇いた笑いを漏らす。そして、しばし考えたのち答えた。
「弦一郎。短剣はもっているか?」
「持っているが…、どうする」
弦一郎は枕元に置いてあった自身の懐刀を手にとった。この刀は前々の戦で雅孝に預けたものだ。無事に手元に帰ってきた。「よくぞ戻った」と言い、手にして雅孝を抱き寄せのも思い出深い。
「刀でお互いのどこかに傷をつけるのよ」
「なに?」
「なに、軽く皮膚一枚を切るだけだ」
雅孝は刀を膝に乗せ、弦一郎の側に寄る。
ふたりの膝が触れ合った。
「合戦からもどるときには切られた傷は治りかけじゃ、そこをよくぞ生きて帰った…と舐めてやるのよ」
「なるほど、治癒するのは生きている証というわけか」
「そのとおり」
「…おもしろい」
こういうことは好かぬか、と雅孝は思ったが、弦一郎は笑んだ。同意してくれたようだ。
新しいことに挑戦するのが好きな性格がものをいったのかもしれぬ。
「戦にも力がみなぎるというもの」
「よし貸せ」
そして挑戦するとなれば、誰よりも早く試したがった。
弦一郎は刀を手に取る。鞘を抜いた。
外より指す月明かりが刀を淡く光らせる。
「お前は右利きだ、雅孝。右の太股の内側を見せろ」
「よし」
雅孝は自分の足にかかる襦袢の裾をめくる。
逞しい筋肉を付けた大腿があらわになる。そこを弦一郎は指でなぞった。指を内側に這わす。
そして屈み、刀を添えた。
「ここの傷は、お前が鬼鹿毛の腹を蹴るときに当たるだろう」
「ふむ」
「そのたび、俺を思え」
弦一郎は、雅孝の内太腿を薄く切った。すっと線を引いたように紅が指す。
「…ここをお前に舐めてもらうのが楽しみだな」
自分の股座に屈んで顔を寄せている。弦一郎のその姿に、興奮する。
「蹴るたびに高まるわ」
「別のとこにすれば良かったか」
「いまさら遅い。では俺は…そうだな背中を見せてくれ」
「…?」
こうか、といって弦一郎は背を向けた。
肩より襦袢を脱がせる。
「…っ」
びくり、と弦一郎が身を震わした。
美しい隆々とした肩甲骨に雅孝は触れる。
「ここだ…。お前が弓を放つとき、ここが少しあがる。それがたまらなく好きじゃ」
「自分では見えぬ場所だ」
「それがよい、無防備でのう…、射るたび、俺を思い出すはずだ」
「…なるほど」
「…」
視線を上に動かす。弦一郎の首筋が目に入った。
本当に、無防備だ。
この雅孝が、首を切り落とすことを疑いはしないのか。
切ったらどうだ。どうなる。
雅孝は自問した。
鬼庭刑部雅孝ー、己が葦名の国についたのは愛する男の国だったからだ。
領主が変われどそれは同じ。
国を愛する前に、その主を愛していた。
だがこの葦名弦一郎がいなければ?
雅孝に葦名への大義はそこまでなかった。
心底惚れた男に仕える。その忠義だけで、ここまで生き延び、戦ってきた。
葦名はもはや斜陽の国。だが逃げ出さぬのは、愛する男がいるからだ。
葦名は近いうちに滅びよう、これは確信だ。
葦名が滅びようとするとき、こいつは何をしでかすか。
最近、囲っているあの九郎とかいう平田の嫡子…怪しい。
人ならぬ力を持つと聞いている。
あの者を弦一郎はどうする気だ。人外の力を手にするつもりか。
葦名を救ったとして、それはあの俺の知っている弦一郎であるのだろうか?
この弦一郎を失ったら自分はどうすればいい。
幼き頃より影はあるが負けず嫌いで、民に優しく、そして気高い子だった。
そして美しく、そしてなにより愛しく。
もはや、彼の生き様が、自分の生きるための意味となった。
「どうした、やはり違う場所にするか」
「いや、…お前の美しいうなじに見惚れていたのよ」
そう軽口を言い、自問を終わらせた。
背を薄く切る。
「これでよし、生きて帰ったとき、背後から、お前を嬲ることができる」
「…嫌な約束をしてしまった」
「楽しみだ」
そしてふたりは向き合った。
「汚れたな」
襦袢は血ですこし赤い染みができていた。それに不浄の気を感じてしまったのか、弦一郎の顔が曇る。
だが雅孝はそれを、
「はじめてのときを思い出す」
などと、冗談を言って消し去った。
「あれは十年ほど前か、初陣だったときじゃ」
「思い出させるな」
「いいではないか、慣れぬ口吸いに戸惑って赤くなっておった」
「雅孝…」
「可愛かったのう」
「雅孝!」
いい加減にしろ…といい、雅孝の首根っこを押さえつけた。
そして唇を寄せる。
「それが随分と…達者になったな」
顔を寄せ、囁く。
ふたりの声はもう互いにしか聞こえぬほど、小さい。
「初々しくなくなって、悪かったな」
「俺は、いまの色気があるお前のが好きだ」
「お前は、変わらぬ」
そう言い、瞼を下ろした。
安心しきって、閉じた瞼。
それを見つめるのが好きだった。
ああ、あの時やはり、切っておけば良かったかー
大手門にて、忍の者に馬に乗り上がられ、切られながら思う。
最後までお前を葦名の呪縛より救ってやれなかった。
「弦一郎…すまぬ…」
この手練れの忍びが、このように痛くなく、一瞬にして切ってやってくれれば…などと、散り際に願った。
本当は、我が手で切ってやりたかった――― 愛しい人よ。
相手の精気をもらい己を鼓舞させるのだ。
今宵は葦名弦一郎と鬼庭刑部雅孝が伽のまえに向かい合っていた。
お互い襦袢姿であった。
「して、何を贈ろうかの」
雅孝が問いかける。
伽の折に、念者の相手に自分の身に付けているものを託す。
これを生きて帰って持って来いという意味合いがある。
「もう贈るものがないな」
弦一郎は自分の手持ちを見て答える。
「はは…戦続きだったからの…」
雅孝は渇いた笑いを漏らす。そして、しばし考えたのち答えた。
「弦一郎。短剣はもっているか?」
「持っているが…、どうする」
弦一郎は枕元に置いてあった自身の懐刀を手にとった。この刀は前々の戦で雅孝に預けたものだ。無事に手元に帰ってきた。「よくぞ戻った」と言い、手にして雅孝を抱き寄せのも思い出深い。
「刀でお互いのどこかに傷をつけるのよ」
「なに?」
「なに、軽く皮膚一枚を切るだけだ」
雅孝は刀を膝に乗せ、弦一郎の側に寄る。
ふたりの膝が触れ合った。
「合戦からもどるときには切られた傷は治りかけじゃ、そこをよくぞ生きて帰った…と舐めてやるのよ」
「なるほど、治癒するのは生きている証というわけか」
「そのとおり」
「…おもしろい」
こういうことは好かぬか、と雅孝は思ったが、弦一郎は笑んだ。同意してくれたようだ。
新しいことに挑戦するのが好きな性格がものをいったのかもしれぬ。
「戦にも力がみなぎるというもの」
「よし貸せ」
そして挑戦するとなれば、誰よりも早く試したがった。
弦一郎は刀を手に取る。鞘を抜いた。
外より指す月明かりが刀を淡く光らせる。
「お前は右利きだ、雅孝。右の太股の内側を見せろ」
「よし」
雅孝は自分の足にかかる襦袢の裾をめくる。
逞しい筋肉を付けた大腿があらわになる。そこを弦一郎は指でなぞった。指を内側に這わす。
そして屈み、刀を添えた。
「ここの傷は、お前が鬼鹿毛の腹を蹴るときに当たるだろう」
「ふむ」
「そのたび、俺を思え」
弦一郎は、雅孝の内太腿を薄く切った。すっと線を引いたように紅が指す。
「…ここをお前に舐めてもらうのが楽しみだな」
自分の股座に屈んで顔を寄せている。弦一郎のその姿に、興奮する。
「蹴るたびに高まるわ」
「別のとこにすれば良かったか」
「いまさら遅い。では俺は…そうだな背中を見せてくれ」
「…?」
こうか、といって弦一郎は背を向けた。
肩より襦袢を脱がせる。
「…っ」
びくり、と弦一郎が身を震わした。
美しい隆々とした肩甲骨に雅孝は触れる。
「ここだ…。お前が弓を放つとき、ここが少しあがる。それがたまらなく好きじゃ」
「自分では見えぬ場所だ」
「それがよい、無防備でのう…、射るたび、俺を思い出すはずだ」
「…なるほど」
「…」
視線を上に動かす。弦一郎の首筋が目に入った。
本当に、無防備だ。
この雅孝が、首を切り落とすことを疑いはしないのか。
切ったらどうだ。どうなる。
雅孝は自問した。
鬼庭刑部雅孝ー、己が葦名の国についたのは愛する男の国だったからだ。
領主が変われどそれは同じ。
国を愛する前に、その主を愛していた。
だがこの葦名弦一郎がいなければ?
雅孝に葦名への大義はそこまでなかった。
心底惚れた男に仕える。その忠義だけで、ここまで生き延び、戦ってきた。
葦名はもはや斜陽の国。だが逃げ出さぬのは、愛する男がいるからだ。
葦名は近いうちに滅びよう、これは確信だ。
葦名が滅びようとするとき、こいつは何をしでかすか。
最近、囲っているあの九郎とかいう平田の嫡子…怪しい。
人ならぬ力を持つと聞いている。
あの者を弦一郎はどうする気だ。人外の力を手にするつもりか。
葦名を救ったとして、それはあの俺の知っている弦一郎であるのだろうか?
この弦一郎を失ったら自分はどうすればいい。
幼き頃より影はあるが負けず嫌いで、民に優しく、そして気高い子だった。
そして美しく、そしてなにより愛しく。
もはや、彼の生き様が、自分の生きるための意味となった。
「どうした、やはり違う場所にするか」
「いや、…お前の美しいうなじに見惚れていたのよ」
そう軽口を言い、自問を終わらせた。
背を薄く切る。
「これでよし、生きて帰ったとき、背後から、お前を嬲ることができる」
「…嫌な約束をしてしまった」
「楽しみだ」
そしてふたりは向き合った。
「汚れたな」
襦袢は血ですこし赤い染みができていた。それに不浄の気を感じてしまったのか、弦一郎の顔が曇る。
だが雅孝はそれを、
「はじめてのときを思い出す」
などと、冗談を言って消し去った。
「あれは十年ほど前か、初陣だったときじゃ」
「思い出させるな」
「いいではないか、慣れぬ口吸いに戸惑って赤くなっておった」
「雅孝…」
「可愛かったのう」
「雅孝!」
いい加減にしろ…といい、雅孝の首根っこを押さえつけた。
そして唇を寄せる。
「それが随分と…達者になったな」
顔を寄せ、囁く。
ふたりの声はもう互いにしか聞こえぬほど、小さい。
「初々しくなくなって、悪かったな」
「俺は、いまの色気があるお前のが好きだ」
「お前は、変わらぬ」
そう言い、瞼を下ろした。
安心しきって、閉じた瞼。
それを見つめるのが好きだった。
ああ、あの時やはり、切っておけば良かったかー
大手門にて、忍の者に馬に乗り上がられ、切られながら思う。
最後までお前を葦名の呪縛より救ってやれなかった。
「弦一郎…すまぬ…」
この手練れの忍びが、このように痛くなく、一瞬にして切ってやってくれれば…などと、散り際に願った。
本当は、我が手で切ってやりたかった――― 愛しい人よ。
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