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前回の話の後の話し。 本編前の話で、かなり捏造あり。 マリク→アルタイル、みたいのが主軸にあります。 (誤字などは随時修正します) どうでもいいのですが、あのアルタイルが大導師の前にいくときいつもいる白いフードの人物の素性がすごく気になります・・
マシャフ砦には100名余りの住人が常にいる。各地に派遣されているものも含めれば数百名。ここはアサシンの本拠地でもあった。アサシンとは基本ローブをかぶったものを呼称する。そしてアサシンというのはこの場合帯刀を許される身分のことである。アサシンになるには儀式を執り行われる必要がある。その儀式の際彼らは左手の第四指を根元より切り落とされる。欠損した肉体は戻らない。彼らは一般人に戻ることはできないとここで自身未来を決められることになる。失われた指を感じて。
そのアサシンの中には鼠色の鎖帷子をつけたものが多い。マシャフの広場で剣の訓練に励み、塔に上ってはイーグルダイブと呼ばれる技術を鍛錬している。位が上がり、師範代になれば鎖帷子の上に真白い布をかけられる。これを身に着けられるものは実に数名しかいない。多くのものがここに到達する前に死亡し、もしくは脱落していくのだ。
師範代の衣装の色に、真白、が選ばれたのはその色は神学者になり済まし身を隠しやすいからでもあるが、その白を鮮血で汚さぬように美しく暗殺を終える技を必要と暗喩してもいた。白など染みが一番目立つ色ではないか。常に赤い染みを作っているような師範代も中に入るがそれは手際が悪いと影で言われる原因にもなりまさに「汚点」だ。
―― アルタイル、彼のローブは常に誰よりも白くあった。
もうひとつ、忠告役という位がある。彼らは鷹を飛ばすことが許され(アサシンにはそれが許されない)代わりに剣を持つことを禁じられた。彼らは白とは真逆の黒のローブを身に着け、そしてフードをしていない。アサシンに忠告し彼らに必要な任務を与える。各地に配属されている管区長などがそれだった。
ひとり、そうたったひとり、黒のローブを身に着けながらもフードを被り、鷹を飛ばすこともでき、かつ剣をもつこともできる人物がいだ。大導師アル・ムアリム ――全権力を持っていたその人物はマシャフの長であり、そしてかの有名なアサシン、アルタイルを動かすことができる唯一の支配者であった。
忠告役の言葉もあまり耳を貸さぬアルタイルは問題視されていた。アサシンとしての腕は確かだが結果を生み出すまでの過程を聞けばあまりにも奔放すぎると皆が思った。奔放あるいは無謀、しかしそれはアルタイルにだからこそできる業であって、他のアサシンならばいくつあっても既に命を落としていたに違いない。そんなアルタイルが傷を負った、という事実は瞬時にしてマシャフに知れ渡った。
あのアルタイルが、一体どんな相手を、しかし命は奪ったらしい、あの白が血の赤に染まるのを初めて見られるのか、それは楽しみだな、ああ、楽しみだな・・
風に乗る言の葉のように揺れて広まる塵のような言葉はマシャフ前の広場に出れば自然と耳に入ってくる。それを聞いたマリクはそのまま足を止めずに中央にある剣訓練の場に向かった。師範代でもあるマリクの白い衣装がくすんだ鼠色の中に一点混じれば、相当に映える、そこで囁かれていた声がふっと止まったのがその証拠だった。
―― ばかばかしいことだ。 他人の評価の前に自分の腕を磨けばいいものを。悔しければその寝み色の服を早く脱げる立場になることだ。アルタイルはお前たちより才能もあろうが、努力をそれ以上にしている。
面白くなかった、表情を変えぬままそこに立っていた者たちに
「そんなに話にうつつを抜かすほどに暇なら俺が剣の相手をしてやろう」と叫ぶ。皆、自分たちの言っていた話を聞かれたことを察知しておりそう言われても目がうつろだ。
「どうした、やらないのか?ほら」広場の模擬戦を行う円の中に乗り上がると、腰より剣を抜いた、これはもう戦闘訓練開始の合図だった。目の前に運悪くもたっていたアサシンが「ひいっ」と声を上げる。
「来ないならこっちからいく。」マリクの剣が風をマシャフの砂交じりの空気を切った。普段は厳しいながらも先輩として面倒見がよく優しいイメージを持たれていたマリクのそんな好戦的な姿は珍しかった。
結局そこのアサシンたちはマリクに散々にやられていた。酷過ぎるしごきに泣き声までだすものもいた。途中で忠告役の一人が見かねて、「もういいだろう」と割入ってくる。正解だ、もう少しで死者がでそうでもあった。
それほどに、
「どうしたんだ。」
「いや・・」
「もう、いいだろう」
二度目となる言葉には同時に肩を叩かれる。自覚がなかったが、呼吸は乱れ、肩は激しく上下されていた。
「ああ、そうだな」と、我に返ったかのようにマリクは剣を鞘に納める。
冷静なお前らしくもない、と言われる。それは自分でもそうだ、と思っていた。
「でも、君の剣は流石だな」
「ありがとうございます」
「そうそう、その謙虚なところもいい。アルタイルとは大違いだ。」
「・・・・。」
誰も彼の本当を知らないくせに。それとも、自分は彼とは相反する性質なのか。
「今、マシャフで一番の腕と言えばアルタイルと君だろう。本当に、君たちには活躍期待してるよ。」
「・・・。」
「そうそう、今度二人で何か重大な任務をまかされるかもしれないな。」
マリクの沈黙が途切れる。
「・・・それは・・?」
「そのうち、大導師直々に命が下るだろう。」
「そうですか・・」
意味深な言い回しだった。何かが秘密裏に動いているのかもしれない。 しかしアサシンに忠告者へ質問して問い詰めるという行為は許されていない。
マリクは戦いに興じた際にできた額に感じる汗をぬぐおうと自分のフードの中に手を差し入れる。事実、外でフードを外すことは許されていない、だからと慎重にしていたが・・丁度その時、ヒューイと、音を鳴らして天高く鷹が飛び、思わず天を仰いでしまった。
マリクのフードがはたりと頭より落ちて首元でくしゃりと皺を作った。
「・・・・。」
それを目にした忠告者はなにも言わなったが、
「まあ、大事にな・・」
とだけ言ってすばやくフードを頭に戻してくれる。太陽の下で、頭を出す―、それはアサシンとしての死の予兆と言われていた。
「・・・ばかばかしい・・」
口にしながらも、心臓は激しい運動後のような動きがまた続いている。すっきりと晴れなかった。 剣をあれだけ振ったのに、嫌な気分はどんよりと腹の深くにはびこっている。 アルタイルとの任務、傷を負ったばかりの彼は更にどこか鋭利さをもち人を人と寄せ付けなくなっている。
――あいつは、きっと無謀をする、そして俺が彼を守ろうとして死ぬ。
そんなこと、予測可能だったのかもしれない。
――それでも彼は俺をかえりみることはない。
こんなことも。
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