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その時好きなものや思ったことなどをゆるく語ってます(ゲームとアニメ、ドラマ、他) ※はじめに、をご一読ください

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夏日
鬼刑部×弦一郎、葦名七本槍



鬼庭刑部はまだ幼いころの弦一郎と槍の鍛錬をしていた。
それは日に日に実践的なものになっていった。
「よい立ち回りだった、弦一郎はいつか儂を超えると見える!」
「そうか」
鬼庭刑部のそれは、相手に贈る最大の賛辞だった。
それを分かってか、弦一郎の汗の浮かんだ顔には、笑みが浮かぶ。
そして次に聞いてきた。
「おじい様はどうだ」
「なに?」
「俺はおじい様も超えられるか?!」
素直な、そう、素直な問いかけだった。
しかし、それに嘘の付けない鬼庭刑部は言葉が詰まってしまった。
弦一郎は察したのだろう、刑部が気づいたときには笑顔を消していた。
そして、目を伏せた。
「俺はおじい様は越えられない…」

その日より、弦一郎は槍を捨てた。
槍の技が極みに達する前にやめてしまった。
毎日のように、「今日も頼む!」と元気よく、形部を誘ってきた初々しい声も無くした。
弓と太刀に心血を注ぎ込むようになった。
もったいないことだと鬼庭形部は思った。
そして、何故本意ではないといえ、「超えられる」と言わなかったのか。
弦一郎の向上心を削いでしまった過去の自分を悔み、常に罰し続けていた。



それから数年がたった。
夏の暑い日、葦名流の道場では腕に覚えのあるものが集い、剣の修行をしていた。
葦名流といってもそこには七本槍の姿も見える。彼らは槍を持たせたら右に出るものはいない。
そこに、ひょいと弦一郎が姿を見せる。
暑さの中、男たちの張り合う声に誘い水のように惹かれてやってきたのかもしれない。
「おお、弦一郎様!」
そんな弦一郎に、気軽に声をかけてきたのは鬼庭主馬雅次だ。
「ひと試合していきますか!」
「そうだな」
弦一郎はそう言い、葦名の翠蒼色の着物にたすきをまわした。
髪も上で結い上げている。
若侍と同じような姿になったが、他の者とはやはり違う。風格があった。
研ぎ澄まされていて美しい、凛とした立ち姿だ。
弦一郎は近くにいたものより長竿を渡された。
「槍稽古か」
「はい、今日は槍の日でして」
なるほど、だから七本槍が勢ぞろいというわけか。
いま模擬試合をしているのは鬼庭刑部雅孝ともうひとりの七本槍だ。さすがに雅孝は強いか、もうひとりは押されっぱなしだった。
「どうした、どうした!鎧をはいでしまうぞ!!」
「うぬぅ・・」
雅孝はいまだにその「鎧はぎ」のくせがぬけずか、追い詰めた相手をよくこうやって大声で煽った。
それがどうした!と言える相手ならいいが、皆この迫力に負けてしまう。
「一本!」
気力で負けたら、それだけで終わる。この時も、結果、負けていた。
雅孝は汗を額の手の甲で脱ぎ、相手と礼を交わした後、雅次と弦一郎のほうにやってくる。
「弦一郎、来てたのか」
「見事だ」
「なに、儂の腕も落ちたものよ」
「次は、弦一郎様とやってやってくれ」
雅次が雅孝にいった。
「む…」
雅孝は弦一郎の手の長竿を目に眉を顰める。
「弦一郎は槍はもうやらんのだ」
雅孝はそういったが、それに不思議そうな顔をしたのは雅次だった。
「なぜゆえにだ?稽古つけてる、といっていたではないか?」
「弦一郎は太刀のほうがうまい、すまんが、剣に切り替えてくれ」
「なぜじゃあ?!随分前は、あんだけ褒めていたではないか?」
雅次めが、しつこいぞ、と。雅孝は雅次を殴る。
「なにするんじゃ!」
取っ組み合いの喧嘩が始まりそうであった。そこに、
「先程より何をしておる、そこ!」
声が遠くよりかかる。
声を投げてきたのは、山内式部利勝だった。彼も七本槍のひとりだ。
しん、と道場が静まり返る。
普段、あまり声を発さない男だ。ほかの七本槍ともあまり交流がなく、孤立している。しかし彼の槍の使い方は非常に稀有で強く、孤高の強さでもあった。
「弦一郎様、せっかくおいでとのこと」
そして弦一郎たちのほうに近寄ってくる。
「一度私と手合わせ願いたく」
「おい、式部」
やめろ、まずい、雅孝は即座に反応した。
こいつは強い。
それは雅孝、時には一心を凌ぐときもあるほどだ。しかも手加減を知らないやつだった。先月も道場で5人ほどこいつにやられけが人がでた。
「山内式部利勝だったか」
「は」
さすがは弦一郎といったところか、彼は七本槍はもちろん、侍大将の名前も全部頭にはいっているのだろう。上に立つものとしては頭脳も鋭い。
「よいだろう、こちらこそ、頼む」
弦一郎は長竿を手に、そのまま式部と向き合う。
「おお、なかなか見られぬ一戦だぞ!」
それに嬉しそうに声を上げるのは雅次だった。
雅孝はこれには意外で、吃驚した。式部を立てたのだろうか?
しかし、ここでやめろと言っては弦一郎に恥をかかすだろう。雅孝は耳打ちした。
「気をつけろ、こいつは、一心様に一本とったことある男だ」
それに、弦一郎の身は震えた。
「相分かった」
それだけで十分だった。

ふたりは道場の中央で向き合い、槍を構えあう。
式部は下に、弦一郎はすこし上に。
「あの構えは太刀の構えか?」
「よいのじゃ、あれで」
雅孝は腕を組み、目を細めた。
弦一郎は槍を持つ時にああした。筋力は槍を振るのに不十分だったが、それを補う素早さがあの構えにはあった。それに加え、ここ数年で彼には強い胸筋が付けられた。それは数百メートル先の的に瞬時に5本は矢を打ち込める瞬発力と強さと正確さだ。
(自分と槍を鍛錬していた頃は、強かったが、槍を持ってない今はどうだ?しかし肉体はあの時よりは強靭になってはいる)
雅孝はふたりの試合がどうなるか読めなかった。
そして気が気でない。
弦一郎が背後にすこし足をさげたところ、それを見て式部が踏む込む。
「ぐっ」
力強い槍の振りを弦一郎は弾き、そして次の手を見切った。
「うまいな」
雅次はこれだけで弦一郎の槍さばきを見抜いたらしかった。
そうだ、弦一郎は強い。
ただ、本人の目指すものがあまりにも高すぎる。
あの葦名一心に並び、超えるなど。
「ふ、ん…!」
式部は見切られてもすぐに強い反撃をしてみせた。
「…、っ」
これには弦一郎も驚いたようで、すぐに身を離し距離をとる。
そうだ、この技が強い。だから皆怖くて踏み出せなくなってしまう。
見切られて手詰まりじゃないのだ。
槍使いは見切られると終わりなところがある。そこは一心も同じで、最後までその域には達せなかった。
しかし式部はその見切りに弱い槍の突き攻撃を逆手にとり、見切られてからの強い反撃をしてくる。見切って油断しきっている相手を、容赦なく斬りつけるのだ。
その上、下からのなぎ払いも攻撃力が高く、えげつなかった。
式部がどんどん優勢になっていく。
「あやつ、葦名の次期当主に怪我させる気じゃないだろうな」
雅次は、空気読んで手加減しろ、と言わんばかりだった。
しかし手加減などしたら、それこそ弦一郎は傷つくだろう。
ついには、式部の長竿の先が弦一郎の首を追い詰めた。
「一本!」
判定者の声が上がる。
「はあ、はあ…」
道場内は静まり返っていた。
そこに、
「良き試合じゃ!」
声がかかった。
声の主は、入口に立っていた葦名一心、その声だった。

一同がそのほうを見る。
各々は身をただし、そして頭をさげた。
「ふむ、よいよい」
一心は長竿をもち向き合っていた中央の二人に近づいていく。
「式部は、相変わらずだのう…。わしももうお前には槍では勝てぬわ」
「いえ、そのような」
式部も身を正す。こんなに縮こまっているこいつを見るのも珍しい。
「弦一郎も筋はいいが…、なんだ、雅孝に教えをあまりもらってないのか」
「…」
弦一郎は黙っていた。
あなたを超えられそうにない、だから槍を捨てた、と言えるはずもない。
「まあよい、槍の稽古中にすまんが。わしもちょいとばかり刀を振りたくてきたのじゃ。だれか、相手をしてくれぬか」
「私が!」
そこに我先にと声を上げたのは、水生氏成だった。
「よかろう!」
一心は木刀を渡され、そして水生と向き合う。
「はじめ!」

試合が終わったふたりは下がった。
弦一郎は雅次に手ぬぐいを渡されるがそれで汗を拭くこともなく、じっと食い入るように一心と水生をみていた。
式部が弦一郎に呟いた。
「わしは戦場で技を培った。太刀はほとんど振れぬ」
「慰めなど、いらん」
「時代が違うのじゃ、奪わなければ生きていけない時代じゃった。そして今は守らなければいけない時代」
「…っ」
だから我武者羅になれないというのか。
自分の剣筋は女々しいと?
式部は直には言わぬが、そう言われている気がした。
弦一郎は手ぬぐいを雅次に返すと、道場を去っていく。
「弦一郎、待て」
それに雅孝が追った。
ふたりの去っていった道場で、「一本!」と声があがっていた。


雅孝が追って行った先、武者侍りにて、弦一郎は壁を背に立っていた。
強い太陽の日差しから、そこは影になっているところだった。
目を閉じている。
何かを考えている面持ちに見えた。
「…」
近くに来た雅孝の気配に気づき、弦一郎は口を開く。
「もうよい」
「なに?」
「お前は俺と本気で向き合えぬ」
「何を言っている?」
「いいのだ」
弦一郎は瞼をあげると、宙を見つめ、そして雅孝のほうを見つめた。
先ほどの試合で流れた汗がまだ引いておらず、美しい顔には濡れた髪が張り付いている。
「雅孝、お前が俺に槍を教えたいのはわかる、だが教えてもらったとして、その槍はおじい様は越えられぬ」
「…」
「それは、お前がおじい様に勝ったことがないからだ。だから俺がおじい様を超える、それが見えてこない」
「…」
「今後は、式部に頼む」
「なに?」
「師として申し分ないと思う。あいつに教えを乞いたい」
「式部は人にものを教えるのは不得手だぞ。あまり人になれぬ男ゆえ」
「そうか?俺はさきほどの一戦だけで多くを学んだぞ」
ぐうの音もでなかった。
命を削り合う戦闘のなかでようやっと、強くなれる。それは一心の言葉ではなかったか。
そうだ、それを雅孝は忘れていた。
弦一郎を前にすると、自分は駄目だ。
随分と前に、そんな己には気づいていた。
幼きころより知っている。親を亡くし、養子として引き取られたすこし哀れな子。
自分が守られば、と一番に考えて接してきた。
安全に、より怪我のないように、と。
真剣勝負で向き合えなくなっていたのはいつからか。
思い返せば、弦一郎を負かそうと思ったこと一度もはなかった。
自分に勝ってほしい、などと願っていつも向き合っていた。
相手を殺し、奪いたいとまで思い、我武者羅にならねば、強くなれない。
その心得を忘れるなど、武士として恥かもしれぬ。
「あとは、巴。この間すこし相手をしてもらったが、かなり強い相手であった」
「そやつは、いま城にきている客人か?あやつは舞の手では?」
「舞もよいが、あいつの本分は剣だ」
「そうか」
何も言えない。
お役御免、といったところだ。
雅孝は頭をうなだれる。
その前に、弦一郎が向き合う。
そして、
「嘆くな。門出だ、祝え」
そう告げた。
頭をあげると、憑き物がとれたような顔をしている。
なのに、自分は泣きそう、などと情けない。
「親離れをしたいと言っているのだ、祝え」
「弦一郎、御免」
思わず、抱きしめてしまった。
褥でもないのに。
腰に手を回して抱き寄せてしまった。
だが、弦一郎は咎めなかった。

ああ、寂しい。
もう、こうして、稽古のあと、息が切れたこの身をだくこともできない。
自分を初めて負かした時も、こうして泣いて抱き寄せていたな。
そのころはもっと細かった。
筋肉も付いた。
知らぬ間に、大きくなる。
愛しい子ほどそうじゃ。

「俺は、葦名を守る」
「わかっておる」
「お前は、そんな俺を側で支えてくれ」
ああ、その言葉だけで、生きていける。



(おわり)





(あとがき)


七本槍のイメージ
雅孝・・頭領、弦一郎に甘い、弦一郎の落若水には反対派?
雅次・・ムードメーカー、雅孝と幼馴染の親戚(いとこあたり?)、弦一郎の落若水も賛成派
式部・・いつもひとり、寡黙(折れた槍のあるお堂を見守ってたあたり、雅孝に思うところある?ライバル視?)

ってかんじです
ほかの4人も気になる

そして七本槍のなかで式部は異常に強いと思います、一心ももちろん強いけど、見切り後に切れないのでそうとう戦いにくいです

鬼弦(っていうの?)は書いていて楽しいので、また書きたいものです
今回はかなり過去よりの話になってしまいましたが

ここまで読んでくださり、まことにありがとうございました

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